#036 銀行ジェロントロジストという資格


最近「銀行ジェロントロジストⓇ」という資格を取りました。

金融財政事情研究会(きんざい)と日本意思決定支援推進機構という共に一般社団法人である2団体の共同認定資格です。

ジェロントロジー( gerontology )という言葉はウイキペディアによると「老年学 - 老齢化又は老いることについて心理学的な立場から考える学問」と定義されています。

きんざいはこの資格を「高齢者に起こりうる認知機能の低下リスク等、ジェロントロジーの基本を理解し、日々の業務で遭遇する高齢者との金融取引においてさまざまな課題を解決し、的確に実務を遂行できる金融機関職員の養成が狙い」であると、その対策問題集の序文に記しています。

ジェロントロジーという言葉を始めて知ったのは2022年2月に大阪で開催された日本FP協会主催のフォーラムにて「加齢による認知機能の低下が資産管理・運用に与える影響 ~神経経済学および金融ジェロントロジーからの示唆~」という講演を聞いた時でした。

その後しばらくして、とある金融機関担当者の名刺に「銀行ジェロントロジスト認定者」なる資格名が書かれていて、このような資格が存在することを知りました。

いわゆる人生後半期のリタイアメント前世代を主要顧客層とする独立FPとしても学んでおくべき分野ということで、その資格取得が目的というよりも、内容そのものを習得することに重点をおいて勉強してみました。

試験時間は100分で四択式50問、100点満点で60点以上で合格となり、受験料手数料は税込み5,500円(2023年10月現在)です。

CBT( Computer-Based Testing )と呼ばれる試験方式によるもので、受験者が受験日時と会場を選択することが可能であり、合否は試験終了直後に知ることができます。

銀行ジェロントロジスト認定試験は5分野で構成されています。

1.高齢者と認知症

高齢期の知能加齢変化と認知症を引き起こす各疾患の特徴、認知症の中核症状と周辺症状などの基本知識

2.金融機関と公的支援窓口の連携

公的な医療保険制度並びに介護保険制度の仕組み、介護保険の介護サービスの内容、地域包括支援センターの役割など

3.財産管理

成年後見制度と民事信託の仕組み、遺言関係、日常生活自立支援事業、後見制度支援預貯金、後見制度支援信託の概要など

4.高齢者取引に係る法律・制度

金融商品取引法、金融サービス提供法、消費者契約法、預金者保護法、特定商取引法などの各法律、並びに日本証券業協会が自主規制規則として定めている「高齢顧客への勧誘による販売に係るガイドライン」について

5.金融実務対応

高齢顧客との取引に関する留意点に関して、払戻金額相違についての照会や振り込め詐欺被害疑いへの対応、高齢者への投資信託や生命保険等の販売、更には高齢顧客家族からの払戻請求や貸金庫契約解除の申し出への対応など


総務省が公表した2022年10月1日時点での人口推計によると、65歳以上の人口は3,623万人強と、日本の総人口の29%を占めるまでになりました。

一方厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が今年4月に発表した将来推計人口の調査によると、65歳以上の高齢者数は2043年に3,953万人とそのピークに達します。

超高齢化社会の進展により、2020年段階で既に600万人強に達した認知症患者数も2025年には700万人前後となり、その後も拡大傾向が続くことが見込まれており、彼らが保有する金融資産の取り扱いは現状以上に大きな問題となることでしょう。

一方で、犯罪収益移転防止法等の遵守による金融窓口取引での厳格な本人確認、代理署名や捺印の禁止などはもちろんのこと、現在は暗証番号さえ知っていれば家族による引落しが現実には可能なATM取引さえも、将来的には生体認証の導入等により不可能となることでしょう。

更には、今後の認知症患者予備軍としての前期高齢者世代はペーパーレスなネット銀行、ネット証券等の利用者世代となりつつあり、家族により代理取引問題以前に、本人意思能力喪失後は口座の存在確認の段階で大きな混乱を生み出すことが必至です。

銀行ジェロントロジストとして学ばなければならない金融ジェロントロジー的領域は今後とも深化し続ける必要がありそうです。

そしてその実践的内容は、金融機関側だけでなく、高齢者を取り巻く社会全体にとっても必須の知識となる予感がします。

追記:

四択式50問の試験は合計200問の正誤問題の集合体とも言えます。

金融ジェロントロジスト認定試験には、次のような選択肢も時々混じっていますので、楽しんで受験できます。

(例題)「高齢顧客から払戻金額相違の照会があった際には、当日の行内現金勘定は合っており、金融機関側には一切の落ち度はないと、毅然とした態度で説明をする」

さすがおもてなしの国の金融機関、この対応はバツだそうです。

2023年11月12日